※高城未来研究所【Future Report】Vol.726(5月16日)より
今週は、川越、浦和、茨城、栃木と関東一円をまわっています。
現在うなぎに関する本を執筆中でして、すでに九州、三方五湖、岡山、四国などをまわり、もうじき浜松周辺を泊まりがけで取材する予定です。
炭火の上でじっくりと焼かれるうなぎの蒲焼の香りは、夏の日本の香りそのもので、日本の食文化そのものを体現しており、調理法には深い知恵が宿っていると都度感じます。
生きたうなぎを手際よく捌き、骨を抜いて皮目を下にして焼く、この職人の包丁さばきと長年の経験から生まれる絶妙な感覚は、言葉では表現できない芸術的な領域に達しています。
江戸前の流儀では一度蒸してから焼くという手間をかけ、この一見遠回りに思える工程こそが、ふっくらとした食感と香ばしさを両立させる秘訣。
個人的には日本文化遺産としてノミネートしたい「うなぎのタレ」を纏わせては焼き、また塗っては焼く。
こうした反復ビートのような繰り返しで生まれる照りと香ばしさは、他の料理では得られない独特の味わいがあります。
一口食べれば、甘みと旨味が口いっぱいに広がり、続いて山椒の爽やかな刺激が後味を引き締める調和のとれた味わいは、何世紀にもわたる試行錯誤の結晶です。
また、タレそのものにも物語があります。
何代も受け継がれる「継ぎ足しのタレ」は、いわば歴史の味。
古いタレに新しいタレを継ぎ足していくことで生まれる複雑な旨味は、時間そのものを食べているかのような錯覚を覚えます。
数百年以上前から使い続けられているタレもあると聞けば、その一滴には先人たちの知恵と思いが凝縮されていると感じずにはいられません。
代々の店主が守り続けてきたその味は、家族の絆であり、店のアイデンティティでもあります。
自然災害や戦争の際にも、タレだけは命がけで守ったという逸話も多く、それほどまでにタレは蒲焼きの魂なのです。
こう考えると、うなぎの蒲焼は単なる料理ではなく、日本の歴史と文化が凝縮された一皿に他なりません。
江戸時代から続く食文化の系譜、職人の技と心意気、素材への敬意と工夫。
これらすべてが一つの料理の中に溶け込んでいます。
その香りと味わいには、日本人のアイデンティティそのものが宿り、幼い頃から親しんできた味が、大人になっても変わらぬ安心感と喜びをもたらすのは、それが単なる食べ物を超えた文化的記憶だと考えます。
つまり、うなぎの蒲焼とは近年世界の称賛を集める日本ならでは和牛(Wagyu)とは異なり、極めて日本の風土に根ざした食物と調理方法、そして食事のスタイルであり、この島国まで旅して初めて出会う珠玉の逸品なのです。
世界に広がる寿司や天ぷらと違い、蒲焼きは今なお日本という文化的土壌の中で最もその真価を発揮します。
最近は欧州やオーストラリアでも、それなりに心を慰める和牛に巡り会えても、真のうなぎの蒲焼の姿を見ることはありません。
もうじきうなぎの季節がやってきます。
でも、実は天然うなぎはこの時期と10月が美味しい!
もし、夏に日本を長期間離れるご予定がある方は、いまのうちにたっぷり日本文化の真髄を食しましょう!
一味も二味も違う天然うなぎは、いまがシーズンです。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.726 5月16日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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